Room sharE
「驚いたな、まさか本当に会えるとは」
彼……タナカさんはすぐにあの体をも貫き通すような鋭い視線をしまいこみ、やんわりと笑った。
「こうゆうの運命って言うのかな」
タナカさんは照れくさそうに笑って、それはそれは自然な動作で私の隣のスツールに腰掛けた。
何だか安っぽいナンパ男の吐く台詞のように思えたが、タナカさんが言うとそう思えないところが不思議だ。
「運命って言葉嫌いなの」
「でしょうね」タナカさんは意味深に笑った。形の良い眉を片方だけ器用に吊り上げて、細めた目の下、口元が勝気に微笑んでいる。
何故だろう。とてもセクシーな唇。
赤スグリのような真っ赤な口紅を引いた唇で彼の唇を奪い、その色を移したい衝動に駆られた。
「こんな小粋な逆ナンパされたの、はじめてだ」
タナカさんはテーブルに、スっとこのお店のロゴが入った名刺サイズのカードを滑らせた。
「昨日、俺のコートのポケットにこれを滑り込ませたのはあなたなんだね。いつの間に?」
否定するつもりもとぼけるつもりも最初から毛頭ない。
「あなたの指に触れたときよ」
私はにっこり笑って、それをつまみ上げた。あっさりと認めるとタナカさんはちょっと顎をひく。
「それに勘違いしないで欲しいわ。ナンパじゃなく、私のことが知りたかったらこのお店に来て、と言う意味よ」
エル・ディアブロのグラスに口を付けた。氷がカラリと空虚な音を立て、グラスの底が見える。一杯目だけにとどめておくつもりが、二杯目も注文して、何故だかタナカさんともっと話したい気持ちになった。