Room sharE
「どうした~?」
タナカさんはすぐ隣を歩く私の歩みが止まったことを不思議に思ったのか、ちょっとだけ前を歩いていた彼が鼻歌を止めてゆっくりと振り返った。かなり酔っぱらっては居たけれど、絶対に私を道路側に歩かせなかったし、私が止まったらすぐにその気配に気づく。
スマートなその気遣いが、ユウキにはないものだった。
「……その曲、映画の音楽でしょ?知ってるわ」
「う~ん……そーだったかなぁ。そうだったかも……どっかで聞いた」
タナカさんはへらへら笑って、曖昧に頷く。でも急に寂しそうに眉を寄せ、長い睫を伏せて僅かに俯く。タナカさんの横顔が―――まるで彫刻のように
美しかった。
「嘘。
嘘、だよ。ちゃんと覚えてる。ホントは―――恋人と見た想い出の映画なんだ。
つっても付き合ってたのかどうか分かんないけど。
向こうは俺よりうんと年上でさ、そいつの気ぃを引きたくて一緒に観た映画」
「……そう……なの。恋人とは別れたの?どうして―――」
「さぁ、分かんね。俺を置いてアメリカいっちまった。まぁ仕事だからしょーがないっちゃないけどさ~」
タナカさんはどこか他人事のように笑う。悲しみを無理やりどこかへ置き去りにしたような……そんな寂しい笑顔だった。
どうして―――……貴方は
「笑うの?
何故……
悲しいときは泣けばいいじゃない」
深いことまで語り合う仲じゃないのに、だってまだ知り合って二日目だし……でもこの瞬間、何故かタナカさんの気持ちが痛いほど分かった。
タナカさんは首だけを振り向かせて、きょとんと目を丸めたのち、すぐに少年のように屈託なく笑う。
「もう忘れた。はくじょーな恋人のことなんて、サッパリね。
でもさ……ときどきふいに思い出す。それは思いがけないタイミングで。
君が
その人に少し似てるから、少しだけ過去を思い出した」
「似てる―――……?どこが?顏?」だから最初から妙に突っかかってきたのね。呆れる、と言うより妙な納得がいった。
「う~ん。雰囲気とか……」そう言ってタナカさんは今度こそ体ごとこちらを向き、私に向き合うとその黒曜石のような瞳をまっすぐに私に向けてきた。宝石のような黒い瞳の奥で外套の青白い光がキラキラ反射している。
あなたは―――かつての恋人にそんな風に向き合ったのね。
私は―――、一度もそんな風に優しく……そして熱く見つめられたことがない。
「艶やかな黒い髪とか……どこかミステリアスなところとか……」
タナカさんの手が私のまとめ上げた髪のクリップに伸びてくる。
そのときだった。