Room sharE
刺すような攻撃的な光が私たちを包み込み、それが車のヘッドライトだと気づいたとき、黒い塊はもう目の前だった。
間近に迫った車のエンジン音が、まるで耳を破壊するかのような勢いで鼓膜を震わせる。そんなわけないのに、それは轟音のように聞こえた。
咄嗟のことで足がアスファルトに吸い付いて動けない。
「危ない!」
タナカさんが怒鳴り声をあげて、私の腕を引くとそのまま突き倒すようにと外壁に身を寄せた。
タナカさんに突き倒されたふしにコンクリートの壁に肩を打ち、私は顏をしかめた。
光が私たちのすぐ横を通り抜けていくのは一瞬だった。車はものすごい勢いで遠ざかって行った。
呆然とその黒い塊が去った方を見やっていると、私を壁に追いやったまま、そして私を包み込むように壁に両手をついたままのタナカさんは車の行方を射るように睨んで
「黒のワンボックス。ナンバーは練馬……」と口の中でナンバーを低く呟いた。
あの一瞬で、そこまで見てさらには覚えたことに驚きだった。
その声はさっきまでの甘い痺れるものではない。それは重圧的で、頭の奥に響くようなそんな声音だった。
まるで刺すような……鉄の塊でさえ貫くような鋭い視線に、私の心臓がドキンドキンと激しく鳴った。
直感――――
この男(ヒト)は危険な人。
でも物理的に大きな危険から守ってくれたのも事実だ。
道路は一方通行で、私たちは車の進行方向と同じ向きで歩いていた。一通とは言え車二台が優にすれ違える程の広さはあったけど、外套の少なさや裏道と言うこともあって制限速度は30キロ制限だ。けれどさっきの車は倍以上は出ていたように思える。
今のは……
―――――明らかに私たちを狙っていた。