Room sharE

Day3 .Gelato ♣TEL



この日、私はマンションから二駅のところにある不動産会社、ZEALE不動産の本社に足を運んだ。


「第一営課長のタナカさんはいらっしゃる?」


と聞くと、応対してくれた若く美しい受付嬢の答えは


「生憎ですがタナカは外出中でして」と言うものだった。


『アポはおありですか?』とか『改めてアポイントをお取りくださいませ』と言う冷たい対応をされるかと思っていたから、わざわざ内線電話で問い合わせてくれた上の対応はちょっとありがかった。


「そう、じゃぁ仕方ないわね。また出直すことにするわ」


残念ね。万年筆を返そうと思ったのに。


でも冷静に考えてみたら、不動産会社の営業マンが昼前のこの時間に社内に居るわけない。


そしてもっと冷静に考えれば、お隣さん同士だし、わざわざ会社まで出向かなくても、正面玄関脇にあるポストに投函する手もあった。




けれど、何故か直接渡すことを選んだ私は―――


――――タナカさんに会いたいのだろうか。



私は手の中にある黒い万年筆をゆっくりと握った。まるでタナカさんの手を握っているかのような……そんな錯覚に囚われる。


でも万年筆はタナカさんの想像の体温のように温かくはなかった。それは冷たく冷たく―――まるでナイフのように冷え切っていた。そう、それは時折タナカさんが見せる、あの射るような視線と良く似た種類のものだった。


電話を掛けようと思った。もらった名刺の裏にナンバーが記されている。


スマホに指を滑らせようとしたときだった。


TRRR……


一件の着信音がロビーに響いた。








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