Room sharE

「だからあれは冗談って言ったじゃない」私は笑った。あの冗談を真に受けていたと思うと本当におかしかった。


エツコはちょっとムっとしたように唇を尖らせて


「だってあんな物騒なこと聞かされたら誰だってびっくりしちゃうじゃない」とちょっと顎をひいた。


「まぁそうよね。私が悪かったわ。でもね、ユウキに浮気されて嫌なことばかりじゃないのよ。とてもいい男に出会ったの」


「いい男？」エツコが益々身を乗り出してきて、わくわくと瞳を輝かせて聞いてきた。もう女子って年齢でもないけれど、でも女はいつまで経っても恋の（予感も含める）話が好きだものね。


私はかくかくしかじかタナカさんとの出会いから始まってこの二日と言う短い間に起きた出来事をかいつまんで話し聞かせた。


「何それ、新しい出会い！」エツコは面白そうに私の話に頷いてくれた。「乗り換えちゃえ」と軽いノリで勧めてくる。


乗り換える―――ね。ユウキへの消化不良の気持ちを置き去りにして、そんな簡単にいくものかしら。


「それかミュージシャンかぶれの彼に、あんたよりいい男と浮気したわって言ってやれば」とエツコが面白そうに顏を歪め、ワインを飲み込む。


それはそれで面白い話ね。やられたらやり返す。


「ところでエツコの方はどうなの？IT企業の社長さんの旦那さまとは」と聞くと


「うちはもうぼちぼちよ」とエツコは手を横に振って苦笑い。


エツコは―――昔から嘘が下手だ。エツコの旦那さまが経営しているその企業は赤字続きで倒産寸前だとか、噂で聞いたわ。その手の噂はどこからでも回ってくる。学生時代の友達が起業家になったりエツコと同じく大企業の社長や役員と結婚した子たちも多いから。


もうその噂はだいぶ前から広まっていて、そんな噂が広まっていることを知らないのは本人だけと言う悲しいのか幸福なのか、それが事実。


本当のところはどうなのか最近まで分からなかったけれど、父が「エっちゃんのところのご主人の会社いよいよ危ないらしいな」と言っていたから、それはどうやら本当のことなのだろうと確信した。


エツコは私にそんなこと一言も言わない。心配させない為か、或いは別のことか―――私にはわからなかったけれど、本人が言い出さない限り私から敢えて聞き出す話題でもない。