Room sharE
エツコの家庭の事情を聞き出すことは諦めて私はセコンド・ピアット(メインディッシュのこと)の魚料理を食べ終えると食後のドルチェもそこそこに店を出ようとした。
家ではユウキが待っているし、たまには早く帰ってあげないとね。何より室外だから寒いし。そんな意味も含めて。
こんなときに限って今日のドルチェはジェラートだし。体の底から冷える感覚に身震いしながら結局半分ほど溶けたジェラートに手を出す気にもなれず。
けれどエツコはその溶けたジェラートを丁寧にスプーンですくいながら、その液体をまじまじ。
「恋愛のはじまりって、こんな風にドロドロに溶けた感じよね。熱でじわりじわりと溶けだすの。
でも、実際食べてみるとそれはおいしくなくて、ただやたらと重い甘味だけが喉の奥に残るの。
それだけならまだしも、冷たさに体を壊さなきゃいいけどね。
いい男って言うのは危険が孕んでるものよ。気を付けた方がいいわ」
良く言うじゃない?火遊びは火傷する、とか。何となく分かる気がする。
確かに、ドロドロに溶けて重い甘味だけが残るって言うのは適切な言葉かもね。
「ご心配ありがと」それとも忠告なのか。
煮え切らない何かを抱えて、私は伝票を手に今度こそ席を立ちあがった。
エツコはその伝票を取り戻そうとは
しなかった。