Room sharE



今日のユウキへのデザートはジェラートと決めた。


帰り道、いつものケーキ屋さんでジェラートの大きなカップ、イチゴとゆずの二種類買って、マンションに帰り着くと


「おかえりなさいませ、城戸さま」


と、こないだタナカさんと一緒に居たコンシェルジュが丁寧に頭を下げ、私を出迎えてくれた。


大学を卒業したばかりなのか、まだ幼さが残る甘い顔立ちに軽やかな声。華奢な体つきで身長もそれほど高くない。新調仕立てなのか制服が妙に浮いて見える。


それはタナカさんのそれとは180度違って見えた。可愛い、って言ったら男の子に失礼だけど、本当に「可愛い」って言葉がぴったりくる。女子高生や女子大生に人気の……何と言ったっけ、とにかく俳優だかアイドルだかに似てなくもない。


「こないだも思ったけれど、見ない顏ね。あなた、新人?」


私が問いかけると、彼は恐縮したように身を縮こませ


「申し訳ございません。何かご不満がおありでしたら……」と続けようとして、その言葉を私は遮った。


「不満なんて何一つないわ。いつもご苦労さま。それより少しご相談したいことがあるの」


私はカウンター越しにそっとそのコンシェルジュの手に自分の手を重ねた。


「………私に……ですか?」とコンシェルジュは困惑したような、それでいて妙に照れくさそうな……顏を真っ赤にさせてチワワのような大きくて愛嬌のある目をぱちぱち。


「ええ」にっこり微笑むと、彼は益々赤面して、そして小さく頷いた。



―――――


――


『――――はい、田中です』


「……もしもし、城戸です」


『キドさん……キド……』彼は小さく復唱しながら、『え!!?お隣さんの!?』と電話口で驚いたような大きな声を出した。


それがおかしくて喉の奥でくすくす笑いながら「ええ、お隣さんの」と続けた。


電話越しの声もセクシー。低く響く重低音は鼓膜を甘く震わせ、脳内まで痺れさせるような甘い声。


「夜分遅くにごめんなさい。今電話良いかしら?」


と言うのも、時計は夜の22時を指している。ほとんど初対面の人にする電話にしてはいささか非常識かと思われたが、散々迷った挙句決意したのがこの時間だった。


『いいよ。今帰ってる途中。打ち合わせ長引いちゃってさー』


タナカさんは間延びした物言いでのんびり言って、その背後に革靴の足音が聞こえる。


私は一人、風呂上りの火照った体を鎮めるため、ベランダに出てシャンパンを飲みながら電話をしている。


リビングにはユウキがいるし、寝室で……と言う気分にはさすがになれなかった。


八畳ほどあるバルコニーにはテーブルと椅子のセットが置いてあって、淡いランプの光だけが白い家具をぼんやりと照らし出していた。光だけでは暖かいイメージがあるけれどさすがに真冬だ。


真冬の木枯らしが耳の横をびゅうびゅう言わせて通り抜けていく。その冷たさはエツコと食べたジェラートよりは冷たく感じなかった。それが不思議だ。


タナカさんの声を聞くだけで、体も心も熱くなる。






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