Room sharE
一連のやり取りを一通り読んで私はスマホをテーブルに置いた。天板はガラス製で、脚の部分は大理石。スマホを投げだしたい衝動に駆られたけど、そんなことしたらテーブルが傷つくでしょう?
いいえ、この怒りとも悲しみともつかない複雑な感情によっていっとき衝動的になっても、後に残るのは酷い後悔だけだと思ったの。だからそんなものの為に何百万とした特注のテーブルを傷つける気にはなれなかった。
代わりと言っちゃなんだけど、この瞬間テーブルが壊れるよりも―――私の心の方が先に
壊れたのかもしれない。
「前から怪しいとは思ってたのよ。夜中にこそこそ電話しているし、レコーディングだ何だかんだ言って平気で一週間もこの家に帰ってこないあなたを。
そのくせCDを出してる気配もないし」
目の前に座った彼は項垂れている。首を深く折りなで肩の両肩を下げて、同じように両手もだらりと降ろして。先ほどから一言も発しない。
「こうなったのはあなたが悪いのよ。私はちゃんと忠告したのに。
私に文句なんて言えないわ」
文字通り
言えないわ。
「調べはついてるの。相手の女は今駆け出しの雑誌モデルとか。確かにとても可愛いわ。とてもね―――まるでライオンの前の子ウサギのように」私が目の前のグラスに入った上質な赤ワインを喉を上下させて一飲みすると、彼の両肩が僅かにぴくりと動いた―――気がした。
「探偵でも使ったのか、って?そんな野暮なことしなくても、あなたは隙だらけだったもの。そんなもの雇わなくても十分だったわ」
私はグラスをテーブルに置くと、小さくため息。彼のスマホをつーと指で滑らせ彼の元まで押し進め、僅かに身を乗り出した。
「大丈夫よ。彼女には何もしないから安心して?私はそこまで低俗な女じゃないの。
知ってるでしょう?
私を怒らせるとどうなるか、って。
あなたには罰が必要のようね。とりあえず
十日……いいえ、一週間でいいわ。この家から出ちゃだめよ。
私の…あなたに対する罰はそれだけ。
そう
たったそれだけよ。
部屋を出られるまで、充分反省なさい」