Room sharE
タナカさんが連れて行ってくれたのはワゴン販売からそう離れていないベンチだった。人二人がゆうに歩ける遊歩道の脇道に入ると、芝生の広場が広がっていてその脇に所々ベンチが設置されている。
時季が時季なだけに、ベンチを利用する人はあまり多くはなかったがそれでもゼロではなく、私たちと同じようにランチをしている営業マン風の人、ご老人たちののんびりしたお喋り、そして子供連れのママ友たちがそれぞれ思い思い過ごしているようだった。
古びた木のベンチを軋ませながら、腰を降ろすと大した会話もなく、タナカさんはすぐにアンパンの紙包みを剥いて、馴染みのサイズより若干大きめの丸いパンにパクつく。よっぽどお腹がすいていたのかしら、その食べ方は豪快だった。
けれど、何だか……気持ち良い程美味しそうに食べるその姿を可愛い、とさえ思う。
私もそれに倣って同じように紙包みを剥がして、一口口に入れると―――それは、想像以上のふわふわの食感と、甘さを控えめにしてあるのにも関わらずしっかりと小豆のコクを感じられる。そして口直しの意味で一飲みしたホットミルクは、思いのほか美味しかった。
思わずプラスチックの蓋を開けて中を確認すると、それはこの時季に降る雪と同じ色の濃密な白色をしていた。
「うまいでしょう?」タナカさんは得意げになって言う。私が一つ頷くと彼はさらに嬉しそうに破顔して「ここだけの話……」と声を潜めた。
そして私の耳に顏を寄せると、「ハチミツが入ってるんだ。こないだ店主にこっそり教えてもらった。内緒だよ」と。一言。
タナカさんの甘くセクシーな声が耳朶を震わせ、脳内まで甘味が浸透していく感じに、ほんの少し身震いした。それはハチミツよりも甘い
―――でも毒針を持つ蜂のように
危険な匂いがした。