Room sharE
「何かを手に入れたら、失うんじゃなくて、何かを失ったら何かを手に入れられるようにできてるよの」
手を繋いだまま私は睫を伏せて、二人分の影が伸びている地面へと視線を向けた。
二人の影はまるで恋人同士のように寄り添って、繋がっている。
タナカさんの私の手を繋ぐ手に力が入った気がした。
「そうかもな」
タナカさんはたった一言だけ言って、でもどことなくその声音が悲しそうな切なそうなそんな色を含んでいた気がしたけれど
私は気付かないフリをした。
――――――
――
ランチを終えて外回りに行くと言うタナカさんと、同じく私用があった私はその場で別れることになった。
「また会えるかな?」タナカさんははじめて会ったときと同じ台詞で別れを切り出した。
「会えるわ。近いうち、必ず――――ね」」私も同じ言葉で返した。
――――そして今、私はカフェでまた別の男と会っている。
マンションから電車で20分程の、ちょっと距離がある場所を選んだのは“お互い”誰かに知られると良くないから。
「ここのコーヒーはおいしいらしいんですよ。城戸さまはきっと舌が肥えていらっしゃると思うから……恥ずかしい話ですが、僕全然お店とか知らなくて……主任……先輩に聞いたらここがいいって」と青年ははにかみながらカップを持ち上げた。
気取らないとことか、素直なところとか……それはタナカさんとは違った可愛さがあった。
彼の名は―――『イシカワ』さんだっけ……はっきりとした記憶はない。彼が身に纏っている制服のネームプレートをちらりと見ただけだから。
そう、彼は私の住むタワーマンションのコンシェルジュ。
「ところでご相談と言うのは……僕に出来ることがあれば何でもしますが」とイシカワさんが切り出した。実は昨日このイシカワさんに相談があると言って、呼び出したのは私だ。ただし店のチョイスは彼だけど。
「ええ。実はね
隣の人の物音が結構聞こえてきて」
私は頬に手を当て小さくため息をついた。