Room sharE
「騒音ですか……僕が……と言うか主任に相談して注意してもらいますが」イシカワさんは拍子抜けしたようにきょとんと目をしばたたかせ、だけどすぐにコーヒーカップをソーサーに置いて眉を寄せ真剣な表情を作った。
「いえ、それほど酷いものでもないんだけれど、でもちょっと気になるっていうか、どんな方が住んでらっしゃるのかな…とか。ほら、私神経質だから真夜中に音がするとそれだけで目が覚めちゃうの」
眉を寄せてコーヒーのカップを両手で包むと、イシカワさんも困ったように眉間に皺を寄せた。
「城戸さまのお隣の方は……僕もはっきりとは知らないのですが、三人程の男性が住んでいらっしゃると思いますよ」
三人………ふぅん。
私は口の中で呟き
「今流行りだものね。ルームシェアって。楽しそうでいいけど。でも男性三人なんてイマドキ珍しいわね」私が苦笑いを浮かべれると
「だから余計配慮が欠けると言うか……細かい部分がおろそかになっちゃうんですよね、きっと」イシカワさんはその状況をあまり気にしていないのか困ったようにため息を吐き、「実は決して少なくないんですよ、この問題。隣人トラブルって言うのですか?」とちょっと真面目に頷いた。
「うちのマンションは壁は分厚いんですが、やはり共同住宅には変わりませんからね、それはもう色々……」と心底困ったように大きなため息をつく。
「大変ねイシカワさんも。ところであの部屋、いわくつきだってご存じ?」
私が聞くと、イシカワさんはきょとんと目をしばたたかせ、やがて「……ああ」と合点がいったように一つ頷いた。
「……あの部屋で自殺者が出たとか出なかったとか……?」
イシカワさんはあの部屋で何が起こったのか知らないようだ。無理もない。彼があのマンションに配属になる前の話だから。
「知らないのならいいわ。気味悪い話だから」
「気味悪いって……何か出るんですか……?今のところそうゆう苦情は出てないですけれど…」
「そ?ならいいわ」
「でも城戸さまのお隣のお部屋ですよね。な、何かありましたら!!僕に言ってください!」
優しい提案に思わず微笑むと
「“何か”あったらまた相談するわ。またどこかでお茶でもしましょう」そう答えると、イシカワさんは顏を真っ赤にさせて小さく頷いた。
その後は一時間ほどお喋りをして、イシカワさんとお別れすることにした。
イシカワさんには「この後食事でもどうですか?」と誘われたけれど、丁重に断った。
「予定があるの」と言うと、イシカワさんは残念そうにしていたけれど、それ以上深くツッコんで聞いてはこなかった。イシカワさんは子供のような顏をしてるけど、引き際を心得ている大人の男だ。
好きよ、そうゆうの。