Room sharE
Day5. Millefeuille ♣Hug
次の日、タナカさんは約束通り……と言うのかしら、まぁ当たり前のようにバーに来た。この日は私たちはウォッカではなく、テキーラをショットで飲んだ。
相変わらず無茶な飲み方だったけれど、馬鹿みたいに騒いで飲んで、学生時代に戻ったみたいで楽しかった。
良い感じに酔っぱらって、ふらつく足取りでマンションまで帰るのもお決まりだ。大して身のない会話を繰り出しながら、今日も帰り道をのんびり歩いていると、この間車に轢かれそうになった路地裏を歩いていた。
だいぶ酔っていた、と言うのもあるし、何より会話が楽しかった。だから失念していたのだ。
「キツネうどんは、何となく分かるわ。キツネは油揚げが好きだものね。鴨南蛮も、鴨がネギを背負ってくるって言うでしょ?じゃぁタヌキは?」
「タヌキは……確か昔天ぷらのこと『たぬき』って言ったんじゃないかな。全体の大きさに比べて中身がほんの少しだから『化かす』って言う意味から。実はたぬきの方が歴史が古いらしい」
「へぇ……」博識ね。
と思っているときだった。
私たちの行先を阻むように突っ立ってた一人の人影に気づいた。その影は、グレーのアスファルトの上、不穏に私たちの足元まで伸びていた。
最初に足取りを止めたのはタナカさんだった。
さっきまで酔っていたのに少し驚いたように目を瞠り、その視線が驚きからすぐに射るような強いものに代わって―――タナカさんを纏う空気が、
変わった。