Room sharE
Day1. Strawberry tart ♣Meeting
「それで?」
友人のエツコがウォーキングマシンの上で軽いジョギングをしながら聞いてきた。結婚して二年、専業主婦業をこなしているエツコは最近めっきり運動不足だと言う。そう言われれば少し太ったかもしれない。
エツコとは幼稚園からの知り合いだ。大学までエスカレーター式のお嬢様学校は、誰もが納得するほどのセレブたちが集まる有名なものだった。
エツコは息を切らしながら
「それで?あんた許したの?」と再び聞いてきた。ジョギングをしながらこちらを見てくるその顏には気持ち悪い何かを見るような表情を浮かべている。エツコは二年前に某有名IT企業の社長と結婚した。お相手は二十も年上だけど、だからこそなのか、エツコにべったりで浮気のウの字の心配もない。エツコもその状況に満足している。私たちは文字通り『箱入り』で育ったせいか、恋愛においてやや潔癖が入っているかもしれない。
浮気をしたら即別れる、と言う単純だけど明確な図が頭の中に常にあった。
けれど
「そうね。許すことにしたわ」私はのんびりと答えた。
「信じらんない!そこまでされて何で別れないの!?」ポニーテールを揺らしながらエツコはウォーキングマシンのスピードを緩めた。
「―――これがユウキに対する執着なのか、愛情なのか、依存なのか
私には分からない。自分でも馬鹿だと思うわ。何であの男と別れられないのか」
出逢ったときからそうだった。あの男は私の欲しいものを何一つ持っていなかったのに、なのに
どこかしら惹かれるものがあった。
いいえ、きっと私に無いものを持っていたから惹かれたのかもしれない。それは自分の未来に対する飽くなき追及。と言えばかっこいい気がするけど、ユウキの場合は野心家と言った言葉の方がしっくりくるかしら。
私はマシンのスイッチをOFFにしてバーに掛けてあったタオルを乱暴に取った。
本当に、こうまでしてどうしてあの男に固着するのか。
「でも、そんなのやっぱだめだよ。私なら許せない」エツコは眉間に刻んだ皺をさらに深くさせてまるで睨むように私を見てきた。
昔からエツコは正義感が強く、同じ歳なのに姉のように頼れて心優しかった。今回の件を相談したら、やっぱり彼女は怒ってくれた。私が彼に怒れない分、エツコが代弁してくれたの。
でもね
「私だってやられてばかりじゃないの。だからちょっとしたお仕置きを彼にしたわ」
私は首から下がっているシルバー製のチェーンを取り出した。ペンダントトップ代わりに付けているのは、同じ素材の小さな鍵。
「なぁに?その鍵」
「ユウキを手錠で縛ってあるの。どこにも行けないように。もう二度と“悪さ”できないように。ね」