Room sharE
その後、私は近くの警察署に連れて行かれた。連れて行かれた―――とは言っても調書を取るだけのために。帰りはパトカーで送ってくれるらしい。
タナカさんは別のパトカーに乗って、この警察署で同じく調書を取られるらしいが、私たちが同席することはなかった。二人の供述に不自然さや嘘がないか確かめるためだろう。
あのモデルの女が私たちを狙った事実に代わりはないし、どうやら彼女もそれを認めているらしい。どこからどう見ても被害者は私たちだ。それでも裏どり、って言うのかしらね。お役所仕事は大変なこと。
折りたたみ式の長机を挟んで、さっきから付き添ってくれた女性警官が手帳を開きながら
「先ほどのこと、詳しく聞かせてください」と切り出されたけれど、何から話せばいいのか分からない。だいぶ落ち着いてはきたけれど、そもそもあまり覚えていないのだ。
酔っていたし……とは言っても今はだいぶ覚めたけれど。
「まずは氏名、年齢、住所、職業からでも結構ですよ」と言われ、ようやく口にすることができた。
調書取りは実に一時間を有した。身元調査は割と早かったが、事件のことを事細かく聞かれて、しかも繰り返し同じ質問をされては、同じ答えを答えて、を何度も繰り返していたから、流石に疲れる。
「ありがとうございました。田中氏との供述の食い違いもございませんようですし、質問は以上です。パトカーでお送りいたしますので、待合室で少々お待ちくださいませ」と言われたときは、ようやく解放された安堵感で再び大きなため息を吐いた。
タナカさん……彼は無事に解放されたようだし、怪我を負っていないのならそれだけで充分。ただ、迷惑を掛けたことは、申し訳ないけれど。
待合室とは名ばかりで、廊下に長椅子を置いただけのその質素な場所で、タナカさんの姿を見た。
「タナカさ……」驚き過ぎてその問いかけはとても小さなものになった。
けれどタナカさんの声はいつも通り、低く囁くように―――
「城戸さん。大丈夫だった?」
そして私を包み込むように、優しく優しく―――響いた。