Room sharE
パトカーの後部座席でタナカさんと隣り合って揺られながら、私たちは数分の間無言だった。
やがて私の方から切り出した。
「どうして何も聞かないの?さっきの彼女と……何があったのか……」
「聞いてほしいの?」
逆に聞かれて、私は口を噤んだ。
「くだらない」
タナカさんは一言、吐き捨てるように呟いた。
くだらない理由が原因で刺されそうになった、と?それとも、くだらない男と付き合っている私がくだらない、と?
どっちでもいい。ただタナカさんの中で急激に何かが冷めていくのが分かった。
――――
――
パトカーに同乗していた警察官の一人が、「部屋まで送ります」と申し出てくれたが、私はそれを丁重にお断りした。マンションには不審者避けの監視カメラがぐるぐる回っているし、警報機もある。怪しい者を見つけたらすぐにコンシェルジュが駆けつけてくれるし。
それにただでさえパトランプを消してはいるけれど目立ったパトカーで送られると、マンションの住人たちに不審がられる。
ただでさえ、閉鎖的な人間が多いここの住人が迷惑がるのも分かり切っているし、一部ゴシップ好きの主婦もいるだろう、彼女たちの話題のネタにされるはもってのほか。そもそも目立つのはあまり好きじゃない。
パトカーなんて、あのときで充分よ。
そう、あのとき――――
私の隣人だった人が自殺したとき。