Room sharE
私たちを乗せたエレベーターが一階に到達すると、そこには誰も居なくて、呼んだ人物はきっと違う機に乗って行ったに違いないけれど、到着する寸前何となく離れて距離を作ったものの、そわそわと落ち着かない私たちが見た光景はがらんどうなロビーで、拍子抜けして思わず二人して笑った。
―――驚きだった。
つい数時間前、きっと普通の人が一生のうちに体験することがない恐ろしい出来事が身に降りかかったのに、私は
笑っている。
タナカさんが居るから。
タナカさんが居てくれたから――――
―――――
――
その夜は―――眠れなかった。
何度も寝返りを打っては無理やり目を閉じたけれど、一向に眠気はやってこず、明け方五時になって私は眠ることを諦めた。
何故眠れないのか。昨夜起きた事件と言うにはあまりにも凄惨な出来事に興奮していたのもあったけれど、別の意味の興奮もあった。
タナカさんと
キスをした。
彼氏が―――ユウキが居るのに。私はユウキを
裏切った。
バカみたい。何故罪悪感を覚えるのか。
だって先に裏切ったのはユウキの方なのに―――
あれこれ余分なことを考えたくなくて、私は自室でコーヒーを飲みながら、何となくニュースをつけた。テレビから流れる情報を耳にしたら、いっとき色んなことを忘れられる気がした。
けれど、これが間違いだった。
『次はお天気コーナーです。今日から明日にかけて低気圧が日本の南を発達しながら東北東に進み、明日には日本の東に進む見込みです。
関東甲信地方では今夜から雨が次第に雪に変わり、あす午前中にかけて山沿いを中心に、平野部でも積雪となる所がある見込みです。雪による交通障害、架線や電線、樹木等への着雪、路面の凍結に注意してください』
大きな液晶テレビからお天気キャスターの機械的な言葉が流れたのを聞いて、私は窓の外を眺めた。
確かに今日は、いつも以上に―――冷えている気がする。
自室にしている寝室もひんやりと冷気が渦巻いている。私はガウンの前を合わせてテレビのスイッチを切ろうとリモコンに手を伸ばした――――所で、その動作をふと止めた。
『続いて次のニュースです』
画面が切り替わり、見知った路地裏が現れたのだ。