Room sharE
午前8時を過ぎると、どの局もモデルのARISAの事件を一通り流し終えたのか、ひと段落はした。今は誰でも実践できる簡単クッキングや、ペットの面白動画なんかを流している。
止せばいいものを、結局は気になってテレビを付ける辺り、やはり他人事ではいられなかった。
この一時間だけでもARISAの傷害事件を扱った番組は5……6?はあった。
中には何故かARISAに同情的で、彼女は二股を掛けられた可哀想な女、相手の浮気相手は私、と言う図を描いたパネルで知ったかぶりをしたコメンテーターがステッキを使ってARISAの幼少時代から今のモデルになるまでの経歴を語っていたり、
『人気絶頂』だとか『美し過ぎるモデル』とかで誇張された言葉を聞いたとき、そして私のことはホストに狂う女社長とか、まったくのデマが飛び交っていたことには笑い出しそうになった。
それだけ私も冷静な部分を取り戻したのだ。昨日の興奮が嘘のよう。
そしてその頃、エツコからも電話が掛かってきた。
エツコはニュースになっている被害者が私だと言うことにすぐに気づき、心配して電話を掛けてくれたようだ。ユウキの名前は流石に出ていなかったけれど、何と言っても事件の現場は私のマンションのすぐ近くだ。すぐにピンときたのだろう。
彼女は私の事で、あることないこと騒ぎ立てられていることに憤慨していた。
当の本人が「言わせておけばいいじゃない」とのんびりしているものだから、途中で怒る気力も失ったようで、それからは励まし、と言うか今度またランチをする約束をして通話を切った。
その数分後に、今度は父から電話が掛かってきた。父は警察にもマスコミにも顏が利く。ただし、昨夜のことは止められなかったようで、世に出たニュースを消し去ることはさすがにできなかったようだが、それ以降のマスコミに対する対応を黙らせることはできる。
うちに記者が押し寄せてくることもちょっと想像したが、「そうはさせない」と父は言った。父の圧力も掛かったし、万が一何者かがマンションを訪れてきても、コンシェルジュには一切通さないことを申し伝えてある。
と言うわけで、午後になると事件もすっかり終息して、ニュースには一切取りあげられることはなかった。
幸いにもユウキは昼過ぎまで寝ていて、世間がこのような騒ぎになっていることを知る由もない。
ただSNSの噂話は独り歩きしているようで、ありとあらゆるメディアでは昨日の事件で持ち切りだった。
私はどの媒体も利用していないけれど、ユウキはどうなのだろうか。でも彼のスマホも取り上げてあるし、私のPCはロックも掛かっている。知る術がない。
そして午後5時になると私はいつものケーキ屋に出かけることを決意した。いつもより遅い時間帯を選んだのは、明るい場所に出て、私のこと誰かに噂されるのを避けたかった。
目立つのは嫌いよ。
今日ぐらいケーキを買いに行くことを止めれば良かったけれど、昨日ユウキにミルフィーユをお土産に持って帰ろうとして、結局床に落としてダメにしちゃったから、彼もむくれているようだし。
でも何故ダメになったのか―――
ユウキは理由を知らない。