Room sharE




― 共 に 堕 チ よ ウ





タナカさんの言葉がくるくる渦を巻いて、私の鼓膜を震わせ、やがて心の中へと入り込む。それは抗おうとしてもできなくて否応なく私の心を支配する。


そうね、二人なら―――怖くはないわ。


彼の手がたとえ闇へ(いざな)おうとしていても、私はその誘いに応じる。抗えない。


「彼氏が浮気してたこと、テレビで知ったのね。今朝は昨日の事件でもちきりだったものね。


テレビでは私が二番であの女が本命って言われてたのに、私の方を信じるの?」


確認のために問いかけると、彼は軽く肩を竦めた。


「くだらないワイドショーなんて気にするなよ。君らしくない。





俺が知ってる君は孤高で強く、逞しい。頭が良い分、ずる賢くもあるけどね」




まぁ。随分な言われようだこと。


「答えになってないわ」


思わず微笑を漏らすと


「頭が良いくせに鈍感なところもあるよな。俺が気づいていなかったと、でも?


君が毎日誰の為にケーキを買って行くのか。知らなかった、と?」


タナカさんの、あの射るような視線がまたも彼に戻り、私を突きさす。まるでナイフのように―――


知って――――いたの……




「君は賢いよ。カレシに裏切られて、その隙間を俺で埋めようとしている。けれど自分から仕掛けることはしない。君が仕掛けたら裏切ったカレシと同じことをしているからね。


君は忍耐強く、そして―――狡猾だ。ときを待って、そしてもっとも効率と効果がある瞬間一気に責め立てる。


君は自分の自尊心の為、俺を利用しているんだ。カレシに裏切られた代償を、自分の裏切りによって払わせるつもりなんだろ?



―――君とチェスをしたら―――とても面白そうだろうけどね。


恋愛ゲームとなると、詰めが甘いよ。



カレシとのこのゲームは、君の




負けだ」





タナカさんは挑発的に笑って、頬杖を突く。


驚いたわ。まさか内心をここまで読まれているとは。


「なら話は早いわね。私から手を引きなさい。ぼーや。


火傷をしないうちにね」


タナカさんと同じだけ不敵に笑って、微笑なんて浮かべると、





「最後の忠告よ。身を滅ぼしたくなかったら、



私から手を引きなさい」







そう忠告した。



タナカさんは両手を挙げて降参のポーズ。「怖いな。年上のおねーさまにちょっかい出すってことはこうゆうことか」


ふざけた軽口を言っても目は笑っていない。据わった冷ややかな視線を私に向けたまま。けれどその両手をゆっくりと下げると射るような視線を仕舞いこみ、切れ長の瞳を揺るがすと切なそうに目を伏せた。





「君は――――美しく、頭が良く狡猾で、そしてその反面


愛されたい人間だ。






俺はそんな君が――――とても可愛いと思うんだ。



そしてこの手で守りたいと思う」




タナカさんの手のひらが私の頬に寄せられ、ゆっくりと包み込まれる。


まるで何かから守るような、そんな優しい手のひら。それは、昨日のあの晩―――モデルのARISAから物理的にも狙われたときと同じ感覚だった。


「そうゆう面も別れた恋人と似ているから?あなたもずる賢いじゃない。


別れた恋人に私を重ねてる。でも私、その人じゃないから。残念ね」


酔った勢いで喋ってくれたタナカさんの過去の恋を引き出し、当てつける私は最低だ。


触れてほしくない部分を平気でこじ開ける私は――――最低だ。


タナカさんが驚いたように目を開いて口を噤む。





お願いだから、私から手を引いて――――


そっとしておいて







じゃないと私は、きっとあなたをもっともっと傷つけることになる。


今なら傷は浅い。






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