Room sharE
昨日はタナカさんからキスをした。けれど今日は私から。
せき止めていた何かが……張りつめた糸が――――プツン……と音を立てて切れた感じ。
私の中で必死にセーブしていたその気持ちが、溢れ出す。
箍が外れた―――
私はタナカさんの両頬を両手で包み、唇を重ねた。
タナカさんの口から甘い甘い吐息が漏れて、やがてやや強引な仕草で彼の手が私の腰を掴むと、エレベーターの扉へと背中を押し付けられた。
彼の片手は私の背中に回り、そしてもう片手は私の頬を包む。角度を変えて何度も何度も―――私たちは口づけを交わした。
タナカさんの首の後ろ……襟足の辺りをそっと撫でると彼はくすぐったそうに笑った。そこから柑橘系の爽やかな香りと、どこか甘いヴァニラの香りが漂ってきて……タナカさんの香水だろうか。
口づけの合間
「私―――あなたのこの香り大好きなの。何だか甘くて、とってもおいしそう」
首元に唇を寄せると、顎を持ち上げられ僅かに口を開いたタナカさんの顏が再び覆いかぶさってきた。
「黙って―――」
エレベーターが目的の階に到達する音が耳の奥で聞こえて、またかなりの勢いで抱き寄せられると、体を反転させ壁際に私を追いやるタナカさん。両手を壁に磔にされて、私は生きた蝶のようにもがいた。
けれどタナカさんはびくともせず、再び蜜よりも甘い、甘い―――口づけの雨が降ってくる。
エレベーターが目的の階に達したのか、静かな音を立てて扉が両側に開いた。
幸いにも誰か乗ってくることはなく――――それでもいつ誰に見られるか分かったものじゃないし。
何事も無かったかのようにそそくさとエレベーターを降りると、彼の手が私の手首を掴み、私の腰に手を回され抱き寄せられる。
「続きを――――……したいっていったら、君は怒る?」
さっきまで―――いいえ、ほんの数秒前まで、いえこの瞬間でさえ行動はやや強引と言えるものだったのに、口から出た台詞はまるでお伺いを立てる子供のよう。
私は首を横に振った。
「私もそうなりたいわ。でも今日はダメ」
「どうして?」
「彼氏がいるの。でも明日なら居ないから―――」
明日は約束の七日目だ。だからユウキも―――あの家に居る理由がなくなる。
明日
それは最後の日。
或は始まりの日――――なのかもしれない。
どちらか分からないけど、私の心は
タナカさんの腕の中、高揚していた。