Room sharE
壊れるぐらいに、と言ったけれど彼は最初から最後まで優しく、優しく―――まるで壊れ物を扱うかのように私を丁寧に抱いた。
彼の指先や唇は熱をもったように熱く、熱く―――……そしてとても優しかった。
こんな風に大切にされたのは、はじめてのことだ。
行為の最中、何故だか泣きそうになった。
タナカさんは何を勘違いしたのか、途中何度も「嫌だったらやめるよ」とか「痛いの?」とかしきりに気にしてくれていたけれど、私はその度に首を横に振った。
「嬉しくて――――
こんな風に愛されたのはじめてよ」
彼が果てる間際、私は熱をもった彼の背中にしがみつきながら、きっと―――タナカさんに会ってはじめての本心を言ったに違いない。
情事の後、私たちは服を着ることもせずベッドで裸の体を絡ませ、戯れていた。それはまるで中学生のように。じゃれあう、と言う言葉の方が適切かしら。
白いシーツの中、私たちの体が小さく揺れている。情事の余韻すらも、こんな風に過ごせるのははじめてのことよ。今までの男は終わったらすぐに着替えてベッドから出るか、寝てしまうか、そっけなくなるか、だったのに。
こんな人もいるものね。
慣れない感覚がくすぐったくて、でもどこか甘酸っぱいこの感覚、体いっぱいに覚えておきたい。と、私はタナカさんのむき出しの背中を目一杯抱きしめた。タナカさんが私を抱きしめ返す。
そしてそのまま反転させると、上に覆いかぶさっていた彼が私の下になり、私の腰に手を回した。
「謎めいていて美人で色っぽい隣人……
君のことをもっと知りたいな」
ベッドの上…乱れた私の黒い髪を撫でながら、彼は言ったわ。
「謎めいていたままの方が恋愛が長く続くものよ?服を一枚一枚脱ぎ捨てるように……ね」ちょっと意味深に笑うとタナカさんは苦笑を浮かべる。
「手始めに、このネックレスのこと知りたいな。これはどこの鍵?」
タナカさんは私の首にぶらさがったシルバー製のチェーンに付けてある鍵をそっと持ち上げ、チュっと色っぽくリップ音を鳴らしてそれにキス。
「男からの貢物だったら妬けるな」
「そんなことはないわ。それは―――」
「君の心の鍵?」
タナカさんはおどけて笑う。
甘い睦言にしては―――随分と可愛いこと。
「あなたにあげるわ。
言った通り、これは私の
心の鍵よ」