Room sharE
首からチェーンを取り外し、彼の手へとそれを落とした。
私はハンサムでセクシーな隣人……タナカさんの腕から抜け出ると、着ていたワンピースを身に着け、ガータータイツに脚のつま先を入れた。脱いだ速度より倍時間を掛けてゆっくりゆっくり衣服を纏う。
心地よい腕を名残惜しそうに何度も振り返って、何でもないように古い映画のメロディを口ずさんでみる。
「その曲……」
タナカさんが目を開いた。
「想い出の曲なの。
私と彼、はじめて一緒に見た映画の。偶然、あなたが恋人と観たって言う映画と同じ映画よ―――」
タナカさんが口を開き、何か言い掛けたときだった。
「いい加減嘘を付くの疲れちゃったわ。
あなたも、でしょう?タナカさん」
私がドレッサーの前で乱れた髪を直していると
「嘘…?」と彼が目をしばたたかせた。
「彼とは……ユウキとは別れていないわ」
ドレッサーの鏡越しに彼と目があった。半身を起き上がらせた彼は、ほんの少しだけ俯いて口元に淡い笑み。
「だろうと思った。想定内だよ」
「そう?じゃぁこれからどうするつもり?」またも鏡越しに見ると
「俺は君の体を奪うことをした。でも次は心だ。
君を傷つけたその男から君を
根こそぎ奪ってやる」
彼の射るような―――強い強い―――視線がまるで鏡を割るかのような威力を持って私を捉える。
私は振り返った。今度は鏡越しではなく、真正面から彼と対峙して
「その言葉を聞けただけでも充分だわ。タナカさん……
いいえ
本当の名を何と言うのかしら。
刑事さん」