Room sharE
タナカさんは私の言葉の意味を探るように、ゆっくりと視線を大きなクローゼットへと向けた。
「エツコから聞きだしたんでしょう?私が“そこ”の鍵を大切にしていることを。そうゆうの聞きこみ、って言うんでしょう?刑事サン」
「確かに彼女からは色々聞きだしたさ。でも―――」
言いかけたタナカさんの言葉を私が遮った。
「いいのよ。エツコは、本当は私のことが
――――大嫌いだもの。
友達を……いいえ友達だと思っていたのは私だけのようだけど、とにかく友人を平気で売る女だと知っていたけれど
でも彼女にも良心ってものがあったのね。あなたを危険な男だ、と彼女言っていたわ。
その忠告を聞かなかった私が悪い……いいえ、そもそもまともに刑事とやり合うつもりなんてなかったし、逃げるつもりも毛頭なかった」
私があっさり認めるとタナカさんは、険しくしていた視線を緩めて……と言うか揺るがして首を横に振った。
何だか急に気が抜けたような―――張りつめていた何かがこときれたような……そんな気もする。
「嘘だと言ってほしい」
「何故?だってあなたは……いいえ、あなた方は私が“殺した”と、ある程度“アタリ”を付けてたのでしょう?
これも想定内のことじゃなくて?」
「想定内だったさ。アタリを付けてたのも確かにある。
でも俺は―――」
彼が何かを言う言葉を遮って、私は寝室の窓を開け放った。大きな窓は両開きで、八畳程あるテラスに出られるようになっている。以前そこでタナカさんと電話をした。
随分昔のような気がするけれど、たったの四日前だけのことだ。彼が見せてくれたスマホの光で創った宝石は
――――嘘じゃなかったと思いたい。
冷たい風がびゅうと大きく吹きこみ、タナカさんは目をしかめた。額に掛かった前髪が、くしゃくしゃになってて少年みたいに可愛い。
私はテラスに出してある少し大きめのどっしりとした木の椅子を力を入れて引きずり、手すりの内側へ移動させた。
「ねぇタナカさん?
私はどんな罪に問われるのかしら。
警察にとって“身内”殺しは許されないことなのでしょう?」
タナカさんは来ていたワイシャツに腕を通しながら、同じようにテラスに出てくる。テラコッタの床に裸足の足音だけが夜空にこだまする。
空を見上げると、うっすらと雲が張った濁った空からは今にも雪が舞い降りてきそうだった。そして同じ動作でゆっくりと下を見下ろすと地面一面がうっすらと白い絨毯をひいている。ほんのわずかだが、雪が積もっているようだ。
タナカさんがここに来たとき、雪に降られたと言っていた言葉を思い出す。
私は椅子に、ガータータイツで包まれた足先を片方だけ乗せた。
「確かに“身内”殺しは重罪だ。けれど法の下、全ての人間は平等だ――――
例え松岡 優輝が
警視総監の放蕩バカ息子だとしても。
彼の正体を知っていたんだろ?君も」