Room sharE
ええ、もちろん知っていたわ。ユウキが警視庁の警視総監の三男坊であることは。
出来の良い二人の兄はエリートコースをまっすぐに進み、絵に描いたような出世コースを行く“優秀”なキャリア刑事になったようだけど、ユウキは違った。
高校生のときに学園祭の為組んだ即席バンドが思った以上の反響を生んだとか。そこから高校を中退してミュージシャンへの道を目指し、その際に厳格な父親から猛反対を受け、半ば勘当のような形で家出をした、と言う話もユウキから直接聞いた。
ユウキの家は代々警察庁長官や、警視総監と言う華々しい経歴を持つ人間を輩出していた。しかしユウキだけは一族の落ちこぼれ。何をやっても中の下で、昔からぱっとしない人生だったと、彼は酔ったふしに何度も愚痴をもらしていた。
タナカさんもきっとユウキのお兄様たちと同じキャリア組のエリートってやつよね。
恐ろしく頭が良くて行動派で―――ユウキとは大違い。
まぁ、ユウキのことを語っても、今更どうでもいい。それよりも今は―――
「こうゆうの何て言うのかしら……
潜入捜査?それともおとり捜査―――は違うか……
枕営業!
て、言葉がぴったりね。刑事なんてやめてホストに転職したらどう、タナカさん。
きっと天職よ。
まさか容疑者の自白を得る為に、容疑者と寝るなんて
――――あなたも身の破滅よ。
私は忠告したはず。
“手を引きなさい”
と、ね」
私は狂ったように高らかに笑い、その笑い声は反響することなく濁った空に吸い取られる。
タナカさんの目に私はどう映る?恋に溺れた憐れな女の末路の何と虚しいことか。それとも高すぎる自尊心の為人生を棒に振った憐れな女か。それとも
頭のおかしな……狂った女の戯言を聞いているだけ、か。
そのどれとも違うわ―――
私は――――……
けれどタナカさんは動じなかった。ぴくりとも眉の先を動かすことなくまばたきさえせず、ただ静かに一歩、進みよった。
「あんたは――――
愛されたかったんだ。ただ一人の男
松岡 優輝に―――
可愛いけど、
可哀想な女だ」