Room sharE
ほどなくして自動扉が僅かな音を発し、左右に開いた。
「開いた……」タナカさんとコンシェルジュが同時に声を挙げ扉の方を眺め、次いで私をの方に顏を向ける。
「どうして……」と言いたげだ。
「指の位置が悪かったんですよ。まっすぐじゃないと、ね」ちょっと微笑んで見せると二人は恥ずかしそうに苦笑い。
タナカさんの緩めた視線が更に緩くなって切れ長の目尻が僅かに下がり、目尻に小さな皺が刻まれる。
あら、なかなかチャーミングな笑顔。と、ちょっと心の中で思いながらも、その後私たちは何となく来たエレベーターに一緒に乗り込むことになった。ここで別々と言うのも何だか余所余所しい気がするし。第一、一緒に乗り込めない、或は乗りたくない理由が私にはない。
タナカさんも同じ気持ちで居てくれたのか、私たちは至極自然にエレベーターに入った。
「はじめまして、先日ここへ引っ越してきたばかりのタナカと申します」
タナカさんは改めて、と言う感じで丁寧に頭を下げ、「さっきはありがとうございました」と恥ずかしそうに頭に手をやる。
「はじめまして、お隣さん。私4017号室のキドです。城の戸と書いてキド」
私が名乗るとタナカさんは驚いたように目を丸め、またも恥ずかしそうに苦笑い。
「お隣さんでしたか、いや……恥ずかしいところを見られたな」
私が微笑を浮かべるとタナカさんは再び恥ずかしそうに頭に手をやり、けれどすぐにその手を降ろして品の良いネイビーのネクタイの首元を締め直した。背筋をちょっとだけ伸ばすと
「でも、ラッキーだな、隣人さんがこんなに美人で、おまけに優しい」
と目を細めて口元にうっすら笑み。
「素敵な褒め言葉どうも。優しいと言われたのははじめてよ」
私の言葉にタナカさんは小さく苦笑を漏らしたけれど結局それ以上それに関して何か言ってくるようではなかった。しつこくないところもスマートで素敵ね。代わりに「重そうな袋ですね。お手伝いしましょうか」と私が提げているケーキのビニール袋に視線をやって指さし。嫌味じゃない気遣いもポイント高いけれど。
私は袋の取っ手を持ち替えた。
「見た目より重くないんです。中身ケーキだから」
私はにっこり。