Room sharE


タナカさんの話に寄ると、彼は都内でも割と大きな不動産会社に勤めているようだ。その不動産会社が扱っている物件の一つに、このマンションがある。


しかし4016号室だけ……つまりは私の隣室だけ長い間空室状態が続いていた。私が知っている限り一年以上は誰も住んで居る気配がなかった。


「しょうがないんですよ、昨今は不景気ですからね」と彼は苦笑い。「駅からちょっと距離もあるし、その割に価格が可愛くないときたら、内見の際に気に入ってくださった方も見積もりを見てびっくり!と言うことが。参りますよ」タナカさんは太くて大きなため息を吐き出した。


ふーん


私は口の中で呟いた。不動産会社の人も大変ねと、どこか他人事だ。


そこで空室を何とか埋めたいオーナー側が、不動産会社の福利厚生として破格の家賃で期間限定で貸し出す、と言うものだった。


「社員寮みたいなものですね。とは言ってもあんな広いところ俺が一人で住むわけじゃなくて、何人かとシェアすることになったんですけど。まぁ夢みたいですよ、俺なんかが一生手に入らない豪邸にただ同然で住めるわけですから。


その代わり、どこがどう快適に過ごせるか、逆にどこが不便であるか調査しなきゃならないんですけどね。
まぁ体のいモニターですよ。でもそれで売れたら成績が上がるんで、頑張りどころですがね」


「今は色々考えるのね」


「何でも有りの時代ですよ。ですが元々の住人の方々のご迷惑になることだけはいたしませんので、どうかこのことはご内密に…」


タナカさんは「しー」と内緒話をするように悪戯っぽくウィンク。


私より五歳ほど年下に思えたけれど、この仕草を見るとまた若返って見える。まるで無垢な少年のようだ。私の中で好感度がさらに上がる。


「ところであなたこそ、どちらかの社長さん?」タナカさんが質問してきて、私はゆるゆると首を横に振った。


「仕事は色々したけどどれも長続きしなくて……このマンションは父の名義なの。私の三十の誕生日にプレゼントしてくれて。親バカよね。


まぁ私もいい年して親のスネをかじってる身だからあまり言えないけれど」


私はうっすら笑ったけれどタナカさんはその印象的な目を丸めて目をパチパチさせている。


「三十……いや、二十代かと思いましたよ」


「口が旨いわね。でもツッコむとこそこ?」私は再び笑った。


ハンサムだけじゃなく、セクシーだけじゃなく、どこか抜け感があって面白い人。


「いや、誕生日プレゼントに臆ションとか……凄いなぁ」タナカさんは頭の後ろに手をやり、爽やかに笑う。


「さっきも言ったでしょう?単なる親バカよ」







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