凍り付いた恋心なら、この唇で溶かそう。
「男と二人きりの寝室で、そういうことを言うな」
呆れたようにため息をついて、Tシャツを着るために一度頭の上から外していたらしいバスタオルを手にして、龍也は難しい顔をした。
「もう、昨日から何それ?私達はただのおさなな……」
「お前にとって俺がただの幼馴染でも、俺はお前をそう思っていたことは一度もない」
何を考えているのか全く読めない黒い瞳がじっと私を捉えて、離さない。それは、私のことはどうでもいいということなのか。それとも。
「……龍也こそ、女の子に軽々しくそういうこと言うの良くないよ?」
とにかく、妙な雰囲気になってしまったこの場を切り抜けたくてふざけて見せれば、龍也の整った眉毛が不快そうに歪んだ。
選択肢を完全に間違えたことに気が付くのは、数秒後。
「そうだ。お前は女子だ」
スマートフォンを握り締めたままだった右手を掴まれて、私は額に冷や汗を浮かべた。
「独り身の男の家に上がり込んで、婚約者に浮気されたなんて弱音を吐いて……俺はどうすればいい?お前に、どうしてやればいい」
現在進行形で困るような問いかけをされているのは私の方なのに、目の前の男は困ったような、悲しげな微笑みを浮かべている。