凍り付いた恋心なら、この唇で溶かそう。
気が付いた時には彼の腕の中にいて、二人分の吐息が寝室を満たしていた。
遮光カーテンから微かに光を透過して朝日が素肌を照らすせいで、全てを見透かされてるような気がして落ち着かない気持ちになる。
そんな不安や焦りまで絡め取るように、龍也は私の唇に自分のそれを重ねた。指先同士が絡まって、一つになって溶けていく。
「ぁっ……」
私は今付き合っている婚約者しか、男を知らない。
婚約者とは触れ方も、香りも、何もかもが違って戸惑いを覚える。それと同時に感じたことのない熱に浮かされて、思わず喉奥から声が漏れた。
いつもは早く終わって欲しいと願う行為。
でも、彼に触れられているともっと、と欲張りになってしまう。
離れたくなくて、打ち寄せる甘い痺れを噛み締めるように彼の大きな背中に腕を回して抱きつけば、龍也の吐息が僅かに揺らいだのが、空気の動きで分かった。
「綾音」
久しぶりに呼ばれた名前に、心の奥底が満たされたような感覚になって、私は薄く微笑んだ。
「……可愛い」
なんて、熱に浮かされてらしくないことを口にするくせに、「好きだ」とは言ってくれないんだね。