凍り付いた恋心なら、この唇で溶かそう。
「綾音、どうかした?」
うつむいて黙り込んでしまった私の顔を、圭が心配そうに覗き込んできた。決して驚くほど美形ではない、けれど優しそうな瞳が私を捉えている。
瞬きをすれば、幼馴染の一見冷たそうに見えて、私にしかわからない変化を見せる顔が瞼の裏に焼き付いていた。
「……ううん。ごめん、何でもないよ」
唐突に思い出した、記憶にある幼馴染の顔を振り払うようにして首を横に振ってそう言えば、圭はどこか安心したように笑った。
「今日、うちに泊まる?」
彼と会う時はほとんど必ず聞かれること。彼の家に泊まる、つまりはそういうことだった。
再び揺り起こされる罪悪感を抑え込むように、私は自分の右手で、反対の手の甲に爪を立てた。
「ごめん、今日は真っ直ぐ帰るよ」
動揺を悟られないように淀みのない声で答えると、圭は少しだけ寂しそうな顔をして頷いたのだった。