凍り付いた恋心なら、この唇で溶かそう。
君はまだ僕のことを知らない
「それで、婚約者のところから逃げ出して来たのか?」
昼間にあったことなど一切話していないのに、龍也は淡々とした様子で、突然訪問してきた私を迎え入れた。
「……別に」
リビングに置かれたソファに腰を下ろして、私は隣に座る龍也を視界に入れないようにうつむいて、低い声で答えた。
婚約者以外の男の人に抱かれて分かったこと。
これは、この人と決めた唯一の人とではないと、酷く罪悪感と後悔が伴う。それなのに、私の婚約者は私に対して何の罪悪感もなく、他の女の子とああいうことをしていたのか。
何かを知ることは必ずしも喜ばしいことではないということを知って、私は深くため息をついた。
「後悔、してるか?」
うつむいたままの私の顔を、横から龍也が覗き込んできて、黒い瞳と視線がぶつかった。
ほんの少しだけひそめられた眉が、私に触れていた時にしていた余裕のない表情と重なって、心臓が音を立てて跳ねる。
一体、どちらに対しての問いかけなのか。
今の婚約者を選んでしまったこと、それとも婚約者がいながら、幼馴染に抱かれたことか。
「……わからないよ」
力なく首を横に振ってそう答えれば、龍也は瞳に宿る光を揺らがせた。それから、一瞬苦しそうに目を閉じたかと思うと、まるで私を小馬鹿にするように薄く笑った。
「お前はまだ子供だな」