凍り付いた恋心なら、この唇で溶かそう。
「叶うと、いいね」
咄嗟に出た他人事のようなセリフに、我ながら少しだけ笑ってしまった。電話越しに、先程まで元気に話していた圭の声のトーンが少しだけ落ちたのがわかる。
『叶えてくれるんでしょ?』
ぼんやりと真っ赤に塗られた爪先を眺めて、私は手を止めた。
ほどなくして、ぽたりと床に真っ赤な液体が落ちる。心が痛くて、血を流しているみたい。
「うん」
また私は、本当に言いたいことを、真っ赤な嘘で塗り潰したのだった。
それから何かしばらく話した気もするけど、内容なんてまるで覚えていない。私の手の中にある、静かになったスマートフォンに視線を落としてゆっくりと息を吐いた。
肺の中の酸素が底を尽きて、呼吸の仕方を忘れそうになった頃――予告のない、インターホンが鳴り響いた。
ハッと息を吸って条件反射で立ち上がる。訪問者が誰かを確認することを忘れて、ただ機械的に鍵を外して扉を開ける。