凍り付いた恋心なら、この唇で溶かそう。
「いいよ、別に。気の迷いでしょ?」
「は!?気の迷いで浮気を許すの?絶対一生繰り返すよ、この男!」
友人の恵美が声を荒らげると、一瞬店内に静寂が下りる。
私が困った顔で唇に人差し指を当てて静かにするように注意すれば、恵美はハッと我に返った顔をして咳払いをした。
程なくして、昼下がりのカフェに再び穏やかな喧騒が戻る。
「そんなこと言われても、年齢的にもう男を選んでる場合じゃないし」
自分の左手にぴったりハマったエンゲージリングを眺めて、私はため息をついた。
私は今年で三十路に突入する。結婚を望まないだとか、そういった理由がなければ自由に恋愛をするなり仕事をするなりすればいい。
けれど私は自分が産んだ子供が欲しいし、そのために結婚がしたい。シングルマザーが悪いこととは思わないけど、それは私のエゴであって、子供のためを思うなら父親はいた方がいいだろう。
いや、こんなふうに自分の幸せのために子供を産むこと自体が、エゴだろうか。
なんて私が思考を回しているのと同じように、何かを考えていたらしい恵美が、閃いたとばかりに顔を上げて口を開いた。