凍り付いた恋心なら、この唇で溶かそう。
「今日ね、これから婚姻届だしに行く約束をしてるんだ」
「結婚を控えてる時期に平気で浮気する男とか?」
自分でもバカな選択肢を取ったことは十分理解している。でも、私の中ではとっくに怒りよりも諦めが勝っていた。
選り好みをしている年齢でもないし、わがままを言っていいような女でもない。こんな私が出来ることは、男の人のやることなすことに目を瞑って、我慢をすることだけ。
「……いいの」
小さく、独り言のように答えると、龍也は何も言わずに鋭い目だけを私に向けていた。
「……どこだ?途中まで送っていく」
「え、いいよ。市役所までだから」
「迷惑か?」
子供のような、幼い瞳を向けてくるものだから私はそれ以上強く断ることができずに、首を縦に振った。