凍り付いた恋心なら、この唇で溶かそう。

「……圭?」


遠目からだと表情までは見えないけど、呆然とした様子で立ち尽くす私の婚約者と、彼にすがるようにして地面に膝をついている若い女の姿が見える。

おおよそ、私と彼が結婚することを知ったらしい浮気相手が泣いて縋って来たといったところか。

心の中で僅かに残っていた、彼に対する愛情に似た何かが一気に栓が抜けていくように流れてなくなっていくのを感じた。

視界の端で歩行者のマークがついた信号機が青に変わったのを見ても、動けずにいる私の手を、我慢できないというように龍也は引っ張った。


「……龍也?」


魂の抜けたような声で呼んで、力の入らない足で彼に導かれるままに歩みを進めていく。彼らの、いる方向へ。

すぐそばまで来たところで、ようやく私達の存在に気が付いたらしい圭がこちらを向いて、驚いたように目を見開いた。

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