凍り付いた恋心なら、この唇で溶かそう。
「綾音、何で」
驚きと困惑。それから、私の手を握っている男の存在を認識して、圭は不愉快そうに眉をひそめた。
圭の足元で髪の毛が乱れるのも、化粧が崩れるのも構わずに大粒の涙を流している女が、にこりと陰気に笑って私を見上げた。
私の知っている華やかな彼女の面影はどこにもない。
「ほら、彼女さんだって浮気してたんじゃない!私ならそんなことしない、私なら圭くんを幸せにできるから……」
「お前、うるさいよ」
甲高い声で喚く彼女を、圭は鬱陶しそうに舌打ちをして、軽く突き飛ばした。
空間が切り取られたかのように、通行人が私達を避けて、一瞥もくれずに足早に歩いていく。
「綾音、この女の言うことは信じないで。ただのストーカーだから」
「ただのストーカーとホテルに行くんだね」
苦し紛れに放たれた言葉に思わずそう口にすると、圭の顔が驚きの色に満ちたかと思うと、苦しそうに歪んだ。
否定の言葉は、ない。
私が押し黙ると、龍也が私を庇うようにして、前に出た。