凍り付いた恋心なら、この唇で溶かそう。

「綾音、何で」


驚きと困惑。それから、私の手を握っている男の存在を認識して、圭は不愉快そうに眉をひそめた。

圭の足元で髪の毛が乱れるのも、化粧が崩れるのも構わずに大粒の涙を流している女が、にこりと陰気に笑って私を見上げた。

私の知っている華やかな彼女の面影はどこにもない。


「ほら、彼女さんだって浮気してたんじゃない!私ならそんなことしない、私なら圭くんを幸せにできるから……」

「お前、うるさいよ」


甲高い声で喚く彼女を、圭は鬱陶しそうに舌打ちをして、軽く突き飛ばした。

空間が切り取られたかのように、通行人が私達を避けて、一瞥もくれずに足早に歩いていく。


「綾音、この女の言うことは信じないで。ただのストーカーだから」

「ただのストーカーとホテルに行くんだね」


苦し紛れに放たれた言葉に思わずそう口にすると、圭の顔が驚きの色に満ちたかと思うと、苦しそうに歪んだ。

否定の言葉は、ない。

私が押し黙ると、龍也が私を庇うようにして、前に出た。

< 24 / 27 >

この作品をシェア

pagetop