凍り付いた恋心なら、この唇で溶かそう。
「お前に綾音は渡さない」
掴まれていた左手の薬指から、するりとエンゲージリングが抜き取られる。
「綾音は俺が幸せにする。だからもう、綾音に関わるな」
けたたましい音を立てて、金属がコンクリートの上を跳ねた。
開いた口が塞がらないといった様子で立ち尽くす男女に背中を向けて、龍也は再び私の手を引いて大股で歩き出す。
その足取りはどことなく苛ついているようにも感じられて、私は心臓が握り締められているような気持ちで彼に着いて歩き続けた。
「……ちょ、ちょっと!龍也!」
視界に入るくらい自宅の近くまで引き返してきたところで、私は勇気を出して声を上げた。
名前を呼ばれた彼は、長い足で急ブレーキをかけて、振り向いた。性急な動作の変化に対応できずに、私はそのまま龍也の胸の中に飛び込む形となった。
そのまま龍也の腕が私の身体を包み込む。