凍り付いた恋心なら、この唇で溶かそう。
「あの幼馴染君は?」
「え、龍也?」
思わぬ人を挙げられて、声が上擦ってしまった。
西山龍也(にしやま りゅうや)。小学校から腐れ縁で現在の職場で共に働いている同期だ。
さすがに一度高校では離れたけれど、何の因果か上京した先の国立大学で偶然にも再会したのだ。
それからも縁はあり、現在家も隣同士。と行っても、出世頭の龍也と一般事務員の私とでは給与の格差がそれはもう酷い。
私は四階建ての民衆向けマンションに住んでいるが、彼は嫌がらせかのようにその隣に建てられた高級マンションの一室に住んでいるらしい。
仕事帰りや買い物の帰りにたまにすれ違うことがある。
「確かに彼女いないけど、仕事一筋だから結婚とか興味ないと思う。……ていうか、女なら選び放題なあいつが、わざわざ私を選ぶとは思えないから」
幼馴染として長い時間を共にしてきた中で、彼に対する恋愛感情が一切なかったかと言われると微妙なところだ。
西山龍也は女子なら誰もが憧れるような長身に美貌、おまけに文武両道と来た。
前世でどんな徳を積んだらあんな人間になれるのか不思議なくらい、非の打ち所のない男。唯一の欠点といえば、恋愛に対する興味が薄く恋人ができても長く続かないといったところか。
社会人になってからは色恋よりも仕事といった様子で、目まぐるしい毎日を過ごしているようだけれど。
「もー、そこはさぁ。幼馴染特権で何とかならないの?」
「何とかねぇ……?」
マグカップに口をつけて、残ったミルクティーを飲み下す。沈殿した砂糖の成分が一気に喉奥に押し寄せてむせ返りそうになりながら私は目を伏せた。