凍り付いた恋心なら、この唇で溶かそう。
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接客業に従事する友人の休日に合わせて取った有給は有意義とも感じられないものとなった。
先ほどまでは楽しい時間を過ごしていたのに、夕方になり友人と別れてから一気に襲ってきた虚無感。
築年数二十年のよくある外装のマンションを見上げて、私は小さく唸り声を上げた。
「……通報されるぞ?」
頭を抱えてうんうん唸っていると、突然後ろから低い声で話しかけられて飛び上がるほど驚いた。慌てて振り返ると、呆れたような顔で立つスーツ姿の幼馴染の姿がそこにはあった。
「おかえり龍也。珍しく早いね?」
「取引先の都合で商談が延期になった。残業時間の関係もあるから今日は帰れと言われて、今帰って来たところだ」
「ふーん」
そもそも部署が違うのでよくわからない。私は適当に流して、足元に落ちた自分のカバンを拾い上げた。
いつもならこうして偶然会った時は、一言二言話して去るこの男が、今日は何故だか動こうとしない。
不思議に思って顔を上げると、龍也は艶やかな黒髪を揺らして首を傾げた。