凍り付いた恋心なら、この唇で溶かそう。
「何かあったか?」
「え、何で?」
いつも無表情で一切の感情を見せない男の顔が、一瞬心配の色で揺らいだ気がして動揺してしまう。
ごまかすような、ふざけた声音で返せば彼の顔色がふっと神妙なものに変わった。
「わかる。お前のことなら」
その言葉に返す言葉が見つからなくて、重い沈黙が流れた。決して饒舌なたちではない男は押し黙ったまま。私の答えを待っているようだった。
「……龍也。今日、泊まらせて」
「またお前は、そうやって……」
「どうせあんたと寝たって何も起こんないでしょ」
呆れたような顔をする男に舌を出してやれば、ため息をつかれてしまった。
小学生の時は砂まみれになりながらグラウンドを一緒に走り回ったし、お風呂にだって入った。
なんなら中学時代なんて一緒の布団で寝てもお互いに妙な空気になることはなかったし、大学生になってからも理由をつけてお互いの家を行き来することはあった。
その中で、男女の関係になるようなことは一切なかったし、そんな雰囲気にもならない。
さすがに、社会人になって、私に恋人が出来てからは一切互いの家に上がることはなかったけど。
「……散らかってるぞ」
「片付けてあげるから、いいよ」
最後の確認、といったように煮え切らない声を上げた龍也に、私は無理矢理に笑顔を作って見せて答えた。