彩―IRODORI―
コウキが、ちらっと向こうを向いた。
あたしも、そちらを見る。
あたしたちを招くように、チカチカと明かりが点滅している。

コウキは顔を少し赤らめて、あたしの顔を見ずに言った。

「あそこなら、なんとかなるかも」
「うん」
「お金、大丈夫?」
「うん、なんとか」

お金の心配をしなきゃいけないのが情けないところだけど、仕方ない。
ううん、そんなことよりも…。

「行こう」

コウキは、あたしの手を握り締めて駈け出した。
あたしは、コウキに遅れないように必死で走った。
水たまりの汚い水が撥ねて、あたしの靴と靴下をビシャッと汚す。

そんなことより、あたしは覚悟を決めなければいけなかった。
心臓がバクバクしているのは、全速力で走ってるからではない。

傘のないあたしたちは、迷うことなくその建物の中に入って行った。
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