契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
Chapter1
✿邂逅✿
栞は生まれた地こそ神戸であったが、物心がついたときにはもう、京都の「市内」に住んで現在に至っているわけなので、自らはすっかり「京」の人だと思ってはいる。
だからと言って、北の方で元は丹後国にもかかわらず「京◯後市」と名乗ろうが、南の方で元は山城国にもかかわらず「京◯辺市」と名乗ろうが、今の御世では「京都府」という大きな括りの中で存在しているのだから、「市内」で生まれ育ったのを錦の御旗にしてあれこれ言う人を見ると「さもしいわぁ」と思っていた。
(そういう人に限って「この国にとっての直近の戦争は?」と聞かれたときに、昭和の「太平洋戦争」ではなく幕末の「蛤御門の変」と答えるのだ)
しかしながら、アシスタントとして雇ってくれるかもしれない作家との面接に臨むため、佐久間の妻から向かうように指示された駅名を聞いたときには、息を飲んだ。
近鉄京都線の高◯原駅だったからだ。
そこが、作家が東京から「京都」に移り住んだ先の最寄り駅だという。
さすがの栞も、
……「京都」って言うたはらへんかったっけ?
京◯辺どころやない。完全に奈良やんかぁ。
と、思ってしまった。
その駅の背後にはイ◯ン高◯原店があり、そこはスーパーマーケットの店内であるにもかかわらず、床に京都府と奈良県の境がでかでかと引かれているので知られていた。
駅は京都府木◯川市側にあるのではなく、奈良県奈良市側にあった。山城国どころか、大和国である。「京の都」からはすっかり離れた畿内だ。