契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
「おれたち、まだ出会って間もないのに……」
打って変わって、神宮寺がやさしい声になった。
「なのに、おれは、もう……
栞がこの世に生まれてきてくれてよかった、って……心の底から思ってる」
その言葉を聞いた栞が、神宮寺を見上げる。
やさしいのは声だけではなかった。
そのアーモンドの形の大きな瞳の目尻は下がっていたし、弧を描いて上がる口元は微笑んでいる以外の何物でもなかった。
「あたし……たっくんにとっては……生まれてきても……よかった、ってこと……?」
栞はすべての力を抜いて、神宮寺に全身を預けた。すると、彼が愛おしげに、栞の髪を撫でてくれた。
生まれて初めて味わう「居場所」の心地よさに、栞はゆっくりと目を閉じる。
……心が、とけて、ほどけていく。