契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
……『奥さん』
その言葉で栞は、はっ、と我に返った。
……そうやった。
栞の髪を満足げに撫でている神宮寺はまったく気がついていないが、撫でられている栞の顔がにわかに険しくなった。
……あたしは『神宮寺先生の契約結婚の妻』になるんやったんや。
今の神宮寺は、栞の思いがけない生いたちを聞いた直後だ。
きっと同情する気持ちもあって、こんなふうにやさしくしてくれているのだろうが、結局いつか自分とは解消する関係であるのは変わりがない。
初めからお互いにバツイチになることを了承したうえでの「結婚」なのだ。
……こんなに居心地のええ場所がなくなったら、
あたしはいったい、どないなるんやろか?
知らなかったときは、たとえどこにも「居場所」がない浮世草の自分でも耐えられた。
だけど、こんなにも心安らかになれる場所があるということを知ってしまった今となっては、もう耐えられないかもしれない。
……そんな日が来たら……どうしたらええの?
栞は堪らず、まるで幼子のように神宮寺にしがみついた。
「……どうした、栞?」
栞が急に甘えてきたと思った神宮寺は、うれしくなって自然と笑みがこぼれた。
……今までのオンナがセックスのあとにこんなことをしてきやがったら、払い除けてたっていうのにな。
そして、栞の頭の上に、ちゅ、と甘いキスを落とした。