契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
そして、とうとう待ち合わせの時間になり……それも過ぎ去って行った。
「光陰矢のごとし」を奥歯でぎりぎりと噛み締めながら、栞は神戸方面に向かって手を合わせた。
……おねえちゃん、行かれへんくて、ごめん。
「……栞、なにしてるんだ?おれ、腹が減ったんだけどさ」
仕事部屋にしている二階の書斎から、神宮寺が降りてきて、能天気に宣った。
……だっ、だれのせいで、手ぇ合わせてると思ってんのよっ⁉︎
元はと言えば、今までにイヤってほど数々の浮名を流した「作家・神宮寺 タケル先生」のせいなのだ。
栞に生まれて初めて、殺意が芽生えた。
彼が「大好きなたっくん」でなければ、殺ってしまっていたかもしれない。
「……先生、今日行かれへんのは仕方ないですけど……せめて、姉にLINE通話させてください」
栞はこれ見よがしに「先生」と呼んでやった。
とたんに、神宮寺「先生」の顔が不機嫌に歪んだ。
……いや、拗ねたのだろうか?