契約結婚はつたない恋の約束⁉︎

『……あの頃、その子のお父さんもお母さんも仕事が忙しすぎて晩ごはんの時間に帰られへんからって、お金だけ持たされてやってんやんかぁ。
せやけど、なに食べても一緒やから、って言うてコンビニで()うたパンとかおにぎりとかばっかし食べてやってんやん。
それを、うちのおかあさんがかわいそうに思ってなぁ……その子をほとんど毎日家に呼んでごはん食べさせてあげててん』

坪庭から縁側を通って差し込む西日が、稍の横顔を照らす。

『それって……今で言うたらネグレクトやん。
成長期の子ぉに対してひどいなぁ。
なぁ、おねえちゃん……あたしらのおかあさんって料理、上手やったん?』

赤ちゃんの頃に出て行った栞には、「母の味」にはまったく覚えがない。

『取り立てて上手(うま)い、っていうわけやなかったよ。ヒガシマルの粉末だし使ったはったくらいやしなぁ……どこにでもある「関西のオカンの味」やったえ』

……そういえば。

栞は思い出した。

自分と同じように祖母から料理を習ったはずなのに、稍のつくった「炊いたん」の味が違っていたことを。

小料理屋で出されたとしても遜色ない祖母の「京のお晩菜」とは異なる、やや繊細さに欠けたどちらかと言えば粗野な味だったということを。
そして、それがいかにも「家庭の味」に感じられた、ということを。


……あれは、「おかあさんの味」やったんや。

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