契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
『そうや……神戸大学の学生で、まだ二十一歳やってんえ』
稍は目を伏せた。
……あたしの歳よりも早う亡くならはったんや。
『そう言えば……震災のあと、聡にいちゃんの遺体確認に行くおかあさんに付き添ったんは……あんたの本当のお父さんやったなぁ』
稍は、一人では立ってもいられないほど憔悴しきった母親が、栞の本当の父親に抱きかかえられるようにして避難所に戻ってきたときの様子を思い出していた。
『おとうさんは……行かはらへんかったん?』
稍はこっくりと肯いた。
『うちのおとうさんとあんたのお兄さんのお母さんは、それぞれ大阪の会社に通勤するために、早々に避難所を出はったからなぁ。
あんたの本当のお父さんは、勤務地のポーアイが液状化して休業状態やったから、あんたのお兄さんと一緒に避難所に残らはってん』
『なぁ、おねえちゃん……おかあさんとあたしの本当のお父さんって、いつ出て行ったん?』
今までは聞きたくてもなかなか聞けなかったことだったのだが、なぜかすんなりと口から漏れ出た。
『しばらくして、あんたの本当のお父さんの会社が、船をチャーターしてポーアイまで迎えに来ることになってなぁ。あんたのお兄さんを連れて避難所を出て行くことになっててんけど……』