契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
✿幽境✿
『……も、もしもし……』
彼の「声」がスマホの向こうから聞こえてきた。
若干かすれ気味ではあったが、落ち着いた低い声だ。
……うっわぁ、めっちゃ緊張するしぃ。
赤ちゃんだったあの頃以来、初めて聞く「兄」の声だった。しかもその頃は、きっと声変わりする前だったはずだ。
……もしかして、あたしの本当のお父さんの声もこんな感じなんかなぁ。
栞も思い切って「もしもし」と応じようとして、口を開いたその瞬間……
手にあったスマホの重みがふっと消えた。
……あれ?
ピッ、という軽快な音が聞こえてきた。
……へっ?
振り向くと神宮寺が、たった今だれかをぶっ殺してきました、という顔をして栞のスマホを握り締めていた。
さらに、そのまま電源のボタンを長押ししたあと、ディスプレイを一回スワイプした。
「……栞、『事情聴取』が終わるまで、これは預かっておく」
……事情聴取?