契約結婚はつたない恋の約束⁉︎

それから栞は、二階にある神宮寺の書斎の奥の寝室(ベッドルーム)に連れて行かれて、キングサイズのベッドの上に座らされた。

「え…えっと……『智史』っていうのは、兄の名前でして……」

栞は後退(あとずさ)りしながら答える。

「ウソつけ」

しかし、間髪入れずに神宮寺から詰め寄られる。

「今までにその口から『姉』の話は聞いたことがあるが……『兄』の話はいっさいない」

神宮寺は栞の肩をぐっ、と掴んで引き戻した。

「……もしかして、院時代から栞のことを狙ってた男か?」

「ち…(ちゃ)いますよっ!
大学時代も、院時代も、あたしみたいな魅力のない(もん)を狙うわけないやないですかっ⁉︎」

……あたしは、たっくんと違って、壊滅的にモテないんですっ!

すると、栞の心の底を見透かそうとするかのごとく、神宮寺のアーモンドの目がすーっと細くなった。

「……それとも、予備校でチューターをしているときの生徒か?」

……はぁ?

「栞はとてもその歳には見えねぇからな。
女子大生がバイトしてると思われて、現役生や浪人生からチョッカイ出されてんじゃねぇか?」

……なんですかっ、その(たくま)しすぎる妄想はっ⁉︎

さすが「小説家」だ、と栞は妙に感心した。

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