契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
「奥さまの方には宝石付きのタイプもございますが」
しかし、栞は首を左右に振った。
「まったく同じデザインのがいいです」
……せっかく、たっくんが『気に入った』って言うて選んでくれはってんから。
「たっくんをいつまでもつなぎ留める作戦」第二弾は絶対に成功させるえっ!
もちろん、栞もすっかり気に入った指輪だ。
「……それでは、Jubileeのpromissumをピンクゴールドでセミオーダーされるということで承りました。それから、Jubileeにはお互いの誕生石を入れるサービスがございまして、神宮寺先生は一月末のお生まれですので奥さまの指輪の内側にガーネットが埋め込まれることになります。
……奥さまは、何月のお生まれですか?」
「九月です」
九月の下旬に栞の誕生日があった。
「でしたら、神宮寺先生の指輪の内側にはサファイアが埋め込まれますね……よろしゅうございますか?」
神宮寺も栞も肯いた。
その後、入籍日とお互いのイニシャルを文字入れすることなどを決めていった。
「……栞、喉渇いたな。カフェオレ淹れてくれ」
神宮寺に言われて、栞はソファから弾かれたように立ち上がり、
「す、すいませんっ!
あたしったら、お茶もお出ししやんと……」
あわててリビングの奥にあるキッチンは向かった。
「……かわいい奥さまですね」
栞の背を見ながら、登茂子が言った。
「あれでも、おれより五歳上なんだがな」
言葉とは裏腹に、栞を目で追う神宮寺の眼差しは「危なっかしくて見ていられない」と語っている。
「武尊から聞いてるとは思うけど、栞とは入籍はしたが公にするのは少し先になる。
あいつはまるっきりの『一般人』だからね。
今はこんな山奥で篭りっきりだが、おれがひさびさにちゃんとした小説を発表できたら、きちんとした形で世間に公表したいと思っているんだ。
でも、そうなると今度はあいつをパーティとか華やかな場に連れ出さなきゃならなくなる。
そのときは、栞のコーディネートを青山さんに任せたいと思ってるんだけど」
「畏まりました。もちろん奥さまに関しましても、先生同様できる限りのサポートをお約束いたしますわ」
登茂子は快く請け負い、
「でも……それでしたら、パーティの際に身につけるアクセサリーとして婚約指輪を贈るべきですわね」
それは、しのぶも言っていたことだった。
結婚指輪と婚約指輪のセットリングはどんな格式の高いパーティであっても「正装」になる。
「どうせなら久城さんにフルオーダーして、結婚指輪に合わせた世界に一つしかない婚約指輪をつくってもらいましょうか?」
「あぁ、それがいいな。
費用は一千万円くらいまでなら問題ないよ」
神宮寺はこともなげに告げた。