契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
「奥さまは幸せね……こんなに拓真さんに愛されて」
登茂子が仕事ではない口調に変わっていた。
「自分でも……こんなふうになるなんてびっくりしてるくらいだよ。
……しかも、まだ出逢って間もないのにさ」
神宮寺は、やわらかな前髪をくしゃっと掻き上げて苦笑した。
「青山さんも知ってのとおり、うちの両親は兄貴の結婚のときも放任だったし、好きにすればいいって言われてるけど……それでもちゃんと栞を連れて行かなきゃなと思ってる。
その前に、落ち着いたら、先に向こうの家に挨拶に行くつもりだ」
そして、神宮寺がキッチンにいる栞に聞かれないように声を潜めた。
「あいつ、ちょっと……複雑な生い立ちでさ。
そういうのもあって……なんだか放っておけないんだ」
登茂子が彼の顔を改めて見た。
「そう……やっぱり、彼女は知ってるのね」
問わず語りのようにつぶやく。
「……拓真さん、このあと、どんなことがあったとしても、彼女をしっかりと守ってあげてね」
登茂子からまっすぐ見据えられた神宮寺は、少し違和感を感じながらも、しっかりと肯いた。
「栞さんは……京都の言葉ね?」
「あぁ、そうさ。だけど、育ったのは京都でも、生まれたのは神戸らしいよ」