契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
✿対峙✿
栞が淹れたてのカフェオレを持ってきた。
フッチェンロイターのバロネスの白いカップを登茂子の前に置いたあと、お揃いのフランフランのイニシャルカップを神宮寺と自分の前に置き、ソファに腰を下ろした。
「栞が淹れたカフェオレ、砂糖を入れなくても不思議と甘いんだ」
神宮寺が「T」のイニシャルカップのカフェオレをごくりと飲む。
登茂子もバロネスからひとくち飲んだ。
「本当にそうやわ、栞さん。
……いえ、栞ちゃん」
突然、彼女が関西弁のアクセントになっていた。
思わず、神宮寺が登茂子を見る。
てっきり、彼女が東京の人間だとばかり思っていたからだ。
「この味……あんたのお父さんが淹れたカフェオレと、同し味するわ」
登茂子からは、それまでの和やかさがすっかり消え失せていた。
「姉から教わったカフェオレです。
たぶん……姉は『母の味』を再現しただけやと思いますけど……」
対する栞の顔も、知らず識らずのうちに強張っている。
そして、神宮寺だけワケがわからず、一人訝しげな顔をするしかなかった。
「ねぇ、栞ちゃん……知ってる?」
登茂子は空虚な笑みを浮かべて訊いた。
「あんたのお姉さん……稍ちゃんと、うちの息子の智史が……」